シューマン●歌曲集「詩人の恋」作品48
 
美しき5月にすばらしい女性と出会った若者が失恋するという、ハイネの詩にシューマンが曲を付けたものだが、

失恋の過程で生じる、断腸の思い、悲しみ、憎しみ、辛酸、失望、孤独感、苦痛等が16曲のそこここに見られ、

聴いていてつらい。「女の愛と生涯」も聴いていてつらい歌で、ヒロインは幸せの絶頂の時に夫と死別してしまう。

「詩人の恋」は、主人公が幸せの絶頂から絶望の淵まで行く過程が描かれる。生きて顔を合わせることもできる

のに、一度幸せの時を過ごした若者にとって最愛の人との別れは、死別よりもはるかにつらいものとなる。その最

愛の人に対する愛情の尊さは生命の尊さに勝るという考え方、簡単に言えば、愛がすべてという考え方は、非現実

的ではあるが誰しもあこがれるところである。それを芸術として提供してくれれば、誰もがそれを見たり聴いたり

したがるものだ。なぜなら、愛の物語は激しく心を動かし、深い感動にひたれるからである。この曲が広く親しま

れているのは、内容が悲劇的であるからでは決してなく、愛情の尊さを実感させてくれるからである。愛聴盤は、

パンゼラ盤。古い録音だが、コルトーの伴奏もすばらしく、一度聴いたら他のレコードが聴けなくなる。

 

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