ディケンズの長編小説の登場人物紹介 愛らしい女性編
ディケンズの15編の長編小説(ただし『エドウィン・ドルードの謎』は未完)の多くには、愛らしい女性が登場します。
エミリーのようにあどけない薄幸の少女もいれば、エイミーのように幸福をしっかりと手にする少女もいます。またフローレンスのようにいろんな経験をすることで成長し最愛の人と結ばれる少女もいます。
マデリン、エステラ、ベラはいずれも美しい女性に描かれていますが、エステラについて言えば、愛らしい女性とはいえないのかもしれません。
ローズ・メイリー 『オリヴァー・トゥイスト』
オリヴァーが窃盗団に連れられ侵入する家の住人。養母のメイリー夫人と暮らしている。メイリー夫人が親切で品格のある女性なので、メイリー夫人に育てられたローズはその影響を受けて実直で優しい女性に成長した。傷ついたオリヴァーを優しく看護するが、また一方、改心したナンシーの訴えをよく理解し、ブラウンロー氏に協力を依頼して、オリヴァーについての難しい問題を解決に導いて行く。後にオリヴァーの叔母であることがわかる。
マデリン・ブレイ 『ニコラス・ニクルビー』
主人公ニコラスが一目惚れする美しい女性。父親の借金の肩代わりに醜悪な老人グライドと結婚させられそうになる。ある日ニコラスの叔父ラルフがグライドとともにマデリンの父親の病床を訪ね、マデリンとグライドが結婚するよう促す。友人のニューマンからそのことを聞いたニコラスは、怒りと激情の嵐が胸を駆け巡り、マデリンを救出しようと決心する。
ドリー・ヴァーデン 『バーナビー・ラッジ』
ロンドンの鍛冶屋ゲイブリエル・ヴァーデンの一人娘。コケティッシュで、彼女に恋するジョーを振り回す。暴動を経験し、最後は自分を助けてくれたジョーと結婚する。
メアリー・グレアム 『マーティン・チャズルウィット』
孤児で、マーティン老人(主人公の祖父)の家に住み込み働いている。主人公マーティンの恋人であるが、マーティンがアメリカ滞在中にペックスニフからしつこく求愛される。お人好しのトム・ピンチからも密かに愛されるが、結局、マーティンと結婚する。
フローレンス・ドンビー 『ドンビー父子』
主人公ポールの娘。幼い時、弟が誕生してすぐに母親と死別する。元々父から顧みられなかったが、幼い弟に慕われるにつれ、父の自分への無関心が嫌悪へと悪化するのを感じ取る。弟との死別、父の会社で働く最愛の人ウォルターが西インド諸島に送られ彼が乗った船が遭難するなどの不幸が続くが、明るさを失わない。
エミリー 『デイヴィッド・コパフィールド』
主人公デイヴィッドの乳母ペゴティの兄の養女。ペゴティが里帰りをすると、主人公はそれに同行した。主人公と同年齢なので、幼い頃のふたりは一緒にあちこち出掛けた。そんなふたりの懐かしい思い出も不覊奔放で誇り高く、下層の人々を蔑視するスティアフォースが、エミリーを誘惑して、周囲の純朴な人の生活と一緒に破壊してしまう。
エイダ・クレア 『荒涼館』
荒涼館の主ジャーンダイスの後見をいとこのカーストンとともに受けている。主人公エスタはエイダの相手をするために荒涼館に招かれた。カーストンと愛し合い結婚するが、カーストン自身は就職ができず、訴訟に巻き込まれ、心労が重なり、子供を残して早世する。夫の死後、ジャーンダイスの援助を受け、男の子を育てる。
シシー・ジュープ 『ハード・タイムズ』
スリーリーのサーカスの道化の娘。父親は年を取って芸が出来なくなったと悲観し、彼女と犬を残して姿を消す。グラドグラインドの家に引き取られ、家の雰囲気をやわらげる。
エイミー・ドリット 『リトル・ドリット』
ウィリアム・ドリットの二女としてマーシャルシー債務者監獄で生まれる。父親の生活費をまかなうためお針子としてクレナム夫人(主人公アーサーの母親)の家で働いている。そこで20年中国にいて帰国した主人公と出会い、愛を育んで行く。思わぬことから、親に巨額の財産が入り環境が一変するが、自分を失わない。
ルーシー・マネット 『二都物語』
アレクサンドル・マネットの美しい娘。銀行員ロリーに連れられてパリに赴き、死んだと思っていた父親に会い、英国に一緒に帰る。父は娘の看病で投獄前の記憶を取り戻す。しばらくしてフランスの元貴族ダーネイとロンドンの裁判で知り合い結婚するが、ダーネイは罠にはまりパリでの裁判で死刑を宣告される。ロンドンの裁判で知り合った弁護士カートンは、一計を案じ、悲嘆に暮れるルーシーのために革命の嵐が吹き荒れるパリに単身で乗り込む。
エステラ 『大いなる遺産』
ミス・ハビシャムに養子として引き取られた高慢な少女。初めてミス・ハビシャムを訪ねた主人公ピップをエステラは、無知な労働者の子と言って軽蔑した。その後もピップは何度かエステラに会い、愛を募らせて行くが、エステラは乱暴な男ドラムルと結婚し、不幸な結婚生活の末、離婚する。程なく、ピップとエステラは再会するが...。
ベラ・ウィルファー 『我らが共通の友』
幼い頃から我が儘で、そこを老ハーモンに買われて、ジョンの許嫁に選ばれる。非常に美しい女性に成長するが、利かん気なところは変わらない。ボッフィンの養女となり、一時は高慢となる。ロークスミス(実は、ジョン・ハーモン)に求愛されると、彼のように下賎な者と結婚する気はないと言う。