ディケンズの長編小説の登場人物紹介   心底憎めない悪人編  

ディケンズの小説には、ラルフ・ニクルビーやジョナス・チャズルウィットのように道義に反する行為を平気で行う極悪人もいますが、ユーモラスな仕草や言動から憎みきれないユライヤ・ヒープのような悪人、また立場が主人公と対立するために悪人として扱われるテレーズ・ドファルジュのような人物もいます。ここでは悪人として描かれているが、どこか憎めないところがある人物を取り上げます。ミスター・ラッジやリゴーは札付きのワルでどうしょうもない悪人とも考えられますが、ミスター・ラッジは息子を無視せずに話し掛けたこと、リゴーはクレナム夫人の悪事を暴いたこともあり、心底憎めない悪人としました。

アルフレッド・ジングル 『ピクウィック・クラブ』

単語の羅列だけで喋る独特の話し方で、信じがたい話を次々と繰り出す。ピクウィック氏の友人として現れるが、ピクウィック氏の一行に多くのトラブルをもたらす。ウィンクル(ピクウィックの同行者)の姿を騙っての無礼からウィンクルは覚えのない決闘を申し込まれる。その後フリート債務者監獄に入獄したピクウィック氏は獄中でジングルと再開するが、ピクウィック氏の寛容から、ジングルは出獄、渡米し、改心して人生をやり直すことになる。

ジャック・ドーキンズ  『オリヴァー・トゥイスト』

フェイギンのアジトにいる盗賊の一人で、フェイギンからから最も厚い信頼を得ている。逃げ足が早いのでアートフル・ドジャーというあだ名を持っている。ロンドンに逃げてきたばかりで疲れきっているオリヴァーと出会ってアジトに連れて行き、仲間に入れる。オリヴァーを連れてスリに出かけ、ブラウンローに目をつけるが、失敗してオリヴァーを置いて逃げてしまう。

マンタリーニ夫妻  『ニコラス・ニクルビー』

ラルフの友人の仕立屋、ラルフはケイト(ニコラスの妹、ラルフの姪)をそこでお針子として働かせ、ケイトは重労働を強いられそうになる。夫が浪費家であるため、会社が傾き、夫人は金策に走るが、夫の浪費癖は一行に改まらない。夫が狂言自殺を敢行するが、ラルフの反発を招き、経済的援助を打ち切られてしまう。

ベツィー・クウィルプ(クウィルプ夫人)  『骨董屋』

夫は醜悪で、凶悪で、生まれながら狡猾であるが、彼の支配権は、ほかならずクウィルプ夫人にたいして最も完璧にふるまわれていた。夫人はかわいい、小柄な、やさしいものの言い方をする女性だが、夫のまなざしで彼女はおびえとまどい、どうしたらよいのかわからなくなっていた。心の迷いにとりつかれて結婚してから、その日々の生活の中で、自分の愚行に対して罪滅ぼしの苦行を積んでいた。夫がテムズ川に転落して死亡してからは、母親の勧めで結婚し、クウィルプの遺産で楽しい生活を送ることになる。

ミスター・ラッジ  『バーナビー・ラッジ』

主人公バーナビーの父。殺されたと思われていたが、ある日、バーナビーの母の前に現れる。お金を無心し脅迫を繰り返すため、母は住み慣れた家を息子とともに離れる。その後、父は犯罪を暴かれて、息子は暴徒に加わったため投獄されるが、暴徒の仲間の襲撃でともに監獄から一時的に解放され、初めて会話を交わす。

チャリティー・ペックスニフ マーシー・ペックスニフ(ペックスニフ姉妹)  『マーティン・チャズルウィット』

ともに父親譲りのずるさ、偽善性を帯びているが、どちらも凶暴なジョナス・チャズルウィットに惹かれる。チャリティーは裏切られ、マーシーは結ばれるが、夫に虐待され、心身ともに弱る。夫の自殺後、マーシーは改心し、マーティン老人の庇護下に置かれる。

バグストック少佐  『ドンビー父子』

密かにドンビーの再婚相手になることを願っていたトックス嬢にアプローチするが、相手にされない。社交界やクラブに出入りしていることを仄めかしながら、ドンビーに取り入り、イーディスを再婚相手に勧める。その結婚が失敗に終り、ドンビーが破産したことを知ると、彼を見捨てる。

クリークル氏  『デイヴィッド・コパフィールド』

セイラム寄宿学校の校長。無学で非情。むち打ちや生徒を威圧することで従わせようとする。ともに彼から懲罰を受けたデイヴィッドとトラドルズの間に友情が芽生える。

ハロルド・スキンポール  『荒涼館』

ジャーンダイスの友人。実務や金銭に無頓着なふりをし、友人に寄生して生活している。学歴があり、美術や音楽の才があり、一応楽しい話し相手である。ジャーンダイスの援助でなんとか生活していたが、ジャーンダイスが後見人となっているリチャード・カーストンからも無心するようになったため、ジャーンダイスが援助を打ち切る。

トム・グラッドグラインド 『ハード・タイムズ』

主人公トマス・グラッドグラインドの息子。父親の教育の犠牲で、利己的で卑劣な若者となる。銀行の金を盗み、人に嫌疑をなすりつけ、国外に逃亡する。帰国することなく海外で死ぬが、病床からの悔悟の手紙が姉のルイーザに届く。

リゴー(ブランドワ)  『リトル・ドリット』

クレナム夫人の秘密を立証する書類を手に入れ、彼女を恐喝する。アーサーにとっては母親の秘密を解き明かしてくれた人物であったが、母親の家が倒壊したとき下敷きとなって死ぬ。

エルネスト・ドファルジュ  『二都物語』

サン=テヴレモンド一族への復讐を誓ったテレーズ・ドファルジュの夫。革命で指導的役割を演じるが、以前アレクサンドル・マネットをかくまっていたことがあり、マネットやルーシーへの同情心からテレーズに彼らの命を助けてやるように主張する。

パンブルチュックおじさん  『大いなる遺産』

ジョーのおじ。裕福な町の雑穀商で上流階級を気取っている。大言壮語、感受性の欠如からなる偽善者。残酷な会話を通してピップに罪意識を植えつける。ピップが大きな遺産を受けることになると、彼に対して急に卑屈になるが、ピップが元の貧しい境遇に戻ると、再び横柄な態度を取る。

サイラス・ウェッグ  『我らが共通の友』

片足が義足の小悪党。街頭で俗謡や食料を売っていたところ、ニコデマス・ボフィンにその「教養」を買われ、毎晩2時間ずつ彼に朗読するために雇われる。塵芥の中をつつき回し、大部分の遺産を国庫に遺贈する旨を記した老ハーマンの遺書を手に入れた彼は、それを種にボフィンを強請りにかかる。