プチ朗読用台本 「チアリブル兄弟の慈心」について

 ディケンズは14の長編小説と未完の『エドウィン・ドルードの謎』という小説の他たくさんの中、短編小説を残していますが、ディケンズが26、7才の頃に書かれた『ニコラス・ニクルビー』は彼の3作目の長編小説です。この小説は典型的な勧善懲悪小説で、悪役として登場する、ラルフ・ニクルビー、スクィアーズ校長、ホーク卿、アーサー・グライドなどは徹底的に懲らしめられ、ニコラス、ケイト、フランク、ティムには途中、悩み、苦しみや悲しみがあるものの明るい結末が用意されています。この小説の特徴は主人公の環境が次々と変わって行くことで、ニコラスは上巻でヨークシャーの学校の教師、旅回り一座の台本書き兼役者として活躍した後、下巻では、チアリブル兄弟の会社で事務員となり、宿敵のラルフを追いつめるだけでなく、マデラインという女性を見初め恋愛へと発展させて行きます。この小説の主人公はニコラスですが、彼より以上に存在感を持っているのが、善人の鑑とも言うべきチアリブル兄弟です。この台本では、ニコラスがどのようにしてチアリブル兄弟と知り合い、彼らの会社の事務員となったかで前半を構成し、後半では、自分たちが貧しいということを悲観して、好きな人を諦めようとしているニコラスとケイトを陰に日向にチアリブル兄弟が応援し、結婚へと導く姿を描きます。

朗読会用台本を読み上げる前に、よりよく理解して楽しんでいただくためにそれまでの物語の流れをごく簡単に紹介させていただきます。

ニクルビー夫人は夫の死により生活に行き詰まり、息子のニコラス、娘のケイトとともに叔父のラルフを訪ねます。ラルフは裕福でしたが意地が悪くニコラスを心良く思わなかったため、最低限度の援助をしますがニコラスにヨークシャーの学校に行くことを強要します。ヨークシャーの学校では校長が生徒に虐待を繰り返していましたが、ニコラスはある日スマイクという生徒が校長に鞭で打たれるのを見て、怒りが抑えられなくなり校長を負傷させます。学校に留まれなくなったニコラスは仕方なく、徒歩でロンドンに戻ろうとします。旅の途中でニコラスを慕って追いかけて来たスマイクと合流し、またクラムルズ一座に出会い、才能を見いだされ一座で活躍することになります。そんなある日、ニコラスはラルフの部下で、初対面の時からニコラスの味方についたノッグスからロンドンに戻るようにとの手紙が届き、一座に別れを告げ急いでロンドンに帰って来ます。ニコラスはケイトと母親のもとへと帰って来ましたが、ヨークシャーでの一件でラルフからの援助が断たれたので、自分で働き口を探さなければなりません。働き口が見つからず行き詰まったニコラスは職探しのために職業紹介所を訪れますが、そこでチャールズ・チアリブルに出会います。



それでは、「チアリブル兄弟の慈心」をごゆっくりお楽しみください。


プチ朗読用台本「チアリブル兄弟の慈心」(『ニコラス・ニクルビー』第35章、第37章、第61章、第63章より)

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