プチ朗読用台本 「ネルとおじいさん」について

 ディケンズは14の長編小説と未完の『エドウィン・ドルードの謎』という小説の他たくさんの中、短編小説を残していますが、ディケンズが28、9才の頃に書かれた『骨董屋』は彼の4作目の長編小説です。ディケンズはこの頃、最愛の義理の妹メアリ・ホガースを急病で失い、失意のどん底にあり、それからしばらくして書かれたこの小説に彼の心情が色濃く反映していると言われています。
 この小説の主人公であるネルは唯一の親類で親代わりの骨董屋を営む祖父が賭博で借金を抱えることになり、悪徳金貸しのクウィルプの取り立てで骨董屋にとどまることができなくなります。ふたりはやむなく、安息の地を求めて当て所のない旅に出ます。賭博好きの祖父を連れたネルの旅は困難を極め、ネルは瀕死の状態でようやく以前知り合った学校の先生に出会います。先生の好意でふたりは教会で暮らすことになりますが、ネルはすでに健康を損ねており、ネルを慕う骨董屋で雇われていたキット等が駆けつけたときには静かに眠るように旅立ったあとでした。
この小説は、ネルと祖父の物語、キットとその家族及びキットの伴侶となるバーバラの一家とその雇い主であるガーランドなどが登場する物語、悪徳金貸しクウィルプとそれに加担するブラース兄妹が暗躍する物語、この三本の話が同時進行するため難解なものになっています。これはディケンズがネルと祖父の物語を際立たせるために用いた方法で、特にクウィルプが登場する場面とのコントラストはその効果を高めています。さらに、ネルと祖父を窮地から救おうとやってきた独身紳士(ネルと祖父を救出しようとする祖父の弟)、最初は悪人だったのが「伯爵夫人」との出会いで改心したディック・スウィヴェラー氏の物語が加わり、しばしばネルと祖父の物語の進行が止まりますが、当時の社会を象徴するようなネルの悲劇的な死で幕を閉じることになります。

朗読会用台本を読み上げる前に、よりよく理解して楽しんでいただくためにそれまでの物語の流れをごく簡単に紹介させていただきます。

この小説は、ネルの祖父が孫を幸福にしたいという一心から賭博に手を出し有り金を失い、悪徳金貸しのクウィルプから借金しそのお金も失ってしまい経営する骨董屋が破産するところから始まります。クウィルプはネルと結婚しようと企み、骨董屋を差し押さえます。ネルはクウィルプから逃れるため、意を決して祖父とともに家を出て放浪の旅に出ます。有り金はほとんどなく、心細い旅でした。最初にふたりは旅回りの一座の世話になり、次に学校の先生の世話になりますが、定住することは叶いませんでした。ようやくろう人形館の女主人のジャーリー夫人のもとで落ち着いた生活を始め、ネルはろう人形館の案内役で生計を立て、定住の地を見つけたかに思われました。ところがある日ネルが祖父と散歩に出掛けた際に、途中で豪雨となり、ふたりが避難した家が博打打ちの巣窟でその時に祖父は有り金を奪われます。失地回復をと焦り、取り乱した祖父はさらにネルの信用を失わせる行動を起こします。それでもネルは祖父を勇気づけ、正しい道に導こうと健気に頑張ります。

それでは、「ネルとおじいさん」をごゆっくりお楽しみください。


プチ朗読用台本「ネルとおじいさん」(『骨董屋』第29章、第30章、第31章、第42章、第43章 第45章、第46章より)

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