プチ朗読会用台本 「ピップの改心」について
ディケンズは14の長編小説と未完の『エドウィン・ドルードの謎』という小説の他たくさんの中、短編小説を残していますが、48、9才の頃に書かれた『大いなる遺産』は彼の代表作であるだけにとどまらず、近代文学史上においても輝かしい業績を残したものであると思います。
この小説は、ディケンズの小説にしばしば見られるような興味深い登場人物、会話の面白さ(ディケンズは興味深い登場人物をいろいろ組み合わせ、これしかないという場面設定で会話をさせるのです)だけでなく、情景描写が秀逸のチャプターがあります。それが第54章で、テムズ川の情景描写がすばらしく、内容としては脱獄囚であるが恩人であるプロヴィス(マグウィッチ)を安全な外国に行かせる(オーストラリアに帰らせる)ためにピップが骨を折るという章です。3月の晴天のもとテムズ川で展開される情景は、スリリングなところもありますが、穏やかで開放的な気分にさせてくれるものです。
朗読会用台本を読み上げる前に、よりよく理解して楽しんでいただくためにそれまでの物語の流れをごく簡単に紹介させていただきます。
主人公ピップは両親が幼い頃になくなり、物心ついた時には年の離れた姉とその配偶者のジョーに育てられていたが、ある時墓地で脱獄囚のプロヴィスと出くわす。ピップは恐怖感からプロヴィスの命令に従い、食料と拘束を解くための道具(やすり)を与える。
幼年時代に然したる変化もないままに過ごしたピップだったが、ジョーのもとで見習い修行を始めた頃に後援者が現れ、ロンドンに出て紳士となるための教育を受けることになる。ピップは後援者が近隣に住むミス・ハヴィシャムであると思いその養女のエステラとの結婚を待ち望んでいたが、突然、プロヴィスが現れ、その後オーストラリアに渡り成功したのでピップに立派な紳士になってもらうために、生活資金を送りつづけたと説明してくれた。ピップは少しずつプロヴィスのことを理解し最初抱いていた嫌悪感がなくなったあとは、ジョーに持っていたものと同じような情をプロヴィスに寄せるようになったが、捕まれば死刑、またコンペーソンという人物がプロヴィスを陥れるために動いていることを知り、テムズ川を航行する汽船にプロヴィスを乗せ帰国させることを思いついた。艀の代わりのボート(友人のハーバートとスタートップが櫂を漕ぐ)の準備も整い、3月の天気のよい日に計画を実行することになる。
それでは、「ピップの改心」をごゆっくりお楽しみください。