プチ朗読用台本「エイミーの献身」について

 ディケンズは14の長編小説と未完の『エドウィン・ドルードの謎』という小説の他たくさんの中、短篇小説を残していますが、45才の頃の書かれた長編小説『リトル・ドリット』はその主な舞台がマーシャルシー監獄という債務者のための監獄であることから、暗いイメージを持つとの先入観が拭えないため、物語の世界に入り難く充分な評価がなされて来ませんでした。しかしながら、この小説はその監獄という小さな社会の中で起きる出来事を興味深く描くだけでなく、ディケンズの小説にしばしば登場するその場をぱっと明るく照らすような個性の強い人物がたくさん登場します。また生彩のないクレナムに希望の光を与え続ける、ヒロイン、エイミー・ドリットの言動に心からの拍手を贈りたくなる読者も多いことでしょう。
 この小説は先に述べたように、一般的には債務者監獄という制度を批判したということでよく知られていますが、この小説を楽しむためには、特殊な状況に置かれたアーサー・クレナムとエイミー・ドリットの恋の行方を追って行きその周辺で起きる出来事に目をやればいいと思います。そのクライマックスのところを台本にしましたのでお楽しみください。
 朗読会用台本を読み上げる前に、よりよく理解して楽しんでいただくためにそれまでの物語の流れをごく簡単に紹介させていただきます。

 アーサー・クレナムは40才を過ぎるまで十年余り外国で暮らしていたが、帰国してすぐ母親のもとでお針子をしているエイミーと知り合う。エイミーの父親は、マーシャルシー監獄で「マーシャルシーの父」と呼ばれる監獄の主だった。帰国後アーサーは、若い頃恋人だったフローラ・フィンチングと再会したり、帰国途上に知り合ったミーグルス氏の娘ペットに引かれたりするが、自分の生活の舵取りだけで精一杯である。アーサーが友人ドイスと始めた会社がうまくいかず、ドイスは活路を見出すために外国へ行ってしまう。さらに追い討ちをかけたのが、投資していた銀行家が自殺したことだった。そのためアーサーは破産し、マーシャルシー監獄に収監されることになる。人生に行き詰まり、精神、心身ともに衰弱の一途をたどっている時に救いの手を差し伸べたのは、貧困の辛さをよく知っているエイミーだった。

 それでは、「エイミーの献身」をごゆっくりお楽しみください。

プチ朗読用台本「エイミーの献身」(『リトル・ドリット』第2部第29章、第34章から)