プチ朗読用台本「オリヴァーの危機」について
 
 ディケンズは14の長編小説と未完の『エドウィン・ドルードの謎』という小説の他たくさんの中、短篇小説を残していますが、26才の頃の書かれた長編小説『オリヴァー・トゥイスト』は、『ピクウィック・クラブ』に続くディケンズの第2作目となる長編小説で、展開に多少荒っぽいところが見られますが、若い希望に満ちた小説家の意気込みや創作活動に対しての真摯な取り組みが随所に見られる興味深い作品です。この小説では、善と悪が完全に分けられ(厳密に言うと、ナンシーだけは悪から善に変りますが)、何の因果か不幸にして貧困や悪人の世界に放りこまれたオリヴァーがそこから脱出する過程が、スリリングに描かれています。オリヴァーは、ブラウンロー氏、メイリー夫人、ローズのおかげで窮地を脱出することができ人間らしさを取り戻して行きますが、オリヴァーを虐待したバンブル、オリヴァーを悪の世界に引きずり込もうとしたフェイギン、モンクスそれからナンシーを殺害したサイクスなどの悪人は徹底的に懲らしめられることになります。前半はオリヴァーの冒険に重点がおかれますが、後半はフェイギンやサイクスが追いつめられて行く過程が描かれるのが中心となっています。そう言ったことから、この小説はティピカルな勧善懲悪の小説と言えると思います。
 朗読会用台本を読み上げる前に、よりよく理解して楽しんでいただくためにそれまでの物語の流れをごく簡単に紹介させていただきます。

 生後間もなく母親を亡くした男の子が、自分の身元がよく分からないままにオリヴァー・トゥイストと名付けられ、救貧院での生活を始めます。ある日オリヴァーはくじで負けておかゆのおかわりを求めたため救貧院におられなくなり、しばらくして葬儀屋に引き取られそこで働くようになります。オリヴァーは葬儀屋の主人に重宝され明るい兆しが見えたかに思われましたが、同僚のノアに母親を侮辱することを言われオリヴァーはかっとなってノアを殴り倒してしまいます。さらにノアの奸計でオリヴァーは主人の信頼を失ったので、大都会ロンドンに行く決意をします。
 大都会に着くのを前に、同じ年頃の少年がオリヴァーに気安く声を掛けて来ます。この少年はオリヴァーに食事を取らせた後、泊まるところに連れていってやろうと言います。断る理由がないオリヴァーはこの少年について行きますが、彼が案内したのは、多数の子供にスリをさせているフェイギンの住居でした。オリヴァーは彼らの正体がわからないままそこで数日を過ごした後、フェイギンの甘言にのせられて仲間とともに仕事に出かけることになります。
 それでは、「オリヴァーの危機」をごゆっくりお楽しみください。

プチ朗読用台本「オリヴァーの危機」(『オリヴァー・トゥイスト』第10章、第11章から)