プチ朗読用台本 「カートンの愛情」について

 ディケンズは14の長編小説と未完の『エドウィン・ドルードの謎』という小説の他たくさんの中、短編小説を残していますが、ディケンズが47才の頃に書かれた『二都物語』は2年後に書かれた『大いなる遺産』とともに彼の代表作です。またこの小説は、1780年のゴードンの騒乱を中心に据えた『バーナビー・ラッジ』とともに歴史小説と言われ、フランス革命の頃の不安な世相を背景に、カートンのルーシーに対する複雑に入り組んだ恋愛模様とその結末を見事に描いています。フランス革命を描いた作品であるのに、実在の人物はひとりも登場せず、すべてディケンズが創造した人物なのですが、主人公のカートン、ヒロインのルーシー・マネット、その夫となるチャールズ・ダーニー以外にも、物語の展開に重要な役割を果たすルーシーの父親アレクサンドル・マネット、ダーニーの一族に家族を虐殺され復讐の鬼と化したマダム・ドファルジュなども強い存在感を示しています。またこの小説は壮大な建築物のような構成の美しさのある小説と言われ、カートン、ダーニー、ルーシー、マネット医師の行動が4本の支柱となりこの物語は綴られて行きます。そうして終局では、マネット医師の手記が裁判に大きな影響を与え、ダーニーに処刑の判決が下されることになります。そうして悲嘆に暮れる最愛の人ルーシーのために、カートンは我が身を犠牲にする英雄的行為を敢行しようと決心するのです。これを可能にしたのは、ひとつはコンシェルジュリの獄舎に自由に出入りできるバーサッドの弱みを握ったからでしたが、それを可能にしたもうひとつは、主人公カートンとダーニーが瓜二つだからなのですが、これは最後の場面を盛り上げて行くためにディケンズが編み出した離れ業という気がします。

朗読会用台本を読み上げる前に、よりよく理解して楽しんでいただくためにそれまでの物語の流れをごく簡単に紹介させていただきます。

物語は、ルーシーの父親、アレクサンドル・マネット(マネット医師)がバスチーユの監獄が解放されたところから始まります。ルーシーは父親をイギリスに連れて帰ります。数年してマネット医師は健康を回復し、ルーシーも語学教師のダーニーと結婚し平和な生活が戻ってきます。しかしダーニーはフランスから送られたスパイとの嫌疑がかけられ、イギリスの裁判所で有罪の判決を言い渡されそうになりますが、ストライヴァーとカートンの証言に救われます。しかしダーニーは彼の一族を滅ぼそうと考えているマダム・ドファルジュの罠に嵌り、以前彼の屋敷で働いていた家令を救うためにフランスに戻り、再び今度は亡命貴族として囚われの身となり裁判にかけられます。一度は釈放されますが、マネット医師が若い頃に書いた手記が証拠として提出され、ダーニーの叔父サン・テヴレモンド侯爵等の悪事が暴かれ、その一族であるだけでダーニーは窮地に追い込まれます。

それでは、「カートンの愛情」をごゆっくりお楽しみください。


プチ朗読用台本「カートンの愛情」(『二都物語』第3巻第10章、第11章、第13章、第15章より)

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