プチ小説「名曲の名盤 クラリネットが主役の名盤編」
「まだ年始で(1月8日)でおめでたい時期ですから、リラックスして楽しく聴ける音楽を取り上げるのがいいと思います」
「船場はんも、あるレコードを聴いてそんな雰囲気を醸し出すのんで、クラリネットという木管楽器に興味を持ったようやで」
「何と言う曲ですか」
「ブラームスのクラリネット・ソナタ第2番や。これはカール・ライスターがゲルハルト・オピッツと共演したのが船場はんのお気に入りやが、その前から好きやったんが、レオポルド・ウラッハのレコードや。船場はんが最初に聴いたのは、廉価盤のアナログレコードでモーツァルトのクラリネット五重奏曲やったが、この第2楽章のお昼過ぎの陽光を浴びながらのんびりと聴いていると音楽ってやすらぎも与えてくれるけどそれ以上の心地よさがあると思ったようだ」
「それはどういうことですか」
「やすらぎがあって、さらに周りの大気に自分が溶け込んで行って明るい陽光の一部になったような...」
「鼻田さんは詩人だったんですね」
「まあ、心地よいと言っただけでは物足らんからね。とにかく船場はんはこのレコードを聴いて、ウラッハに惚れ込み彼のレコードの蒐集を始めた」
「クラリネットの有名な曲で、ウラッハが録音している曲と言うと、モーツァルトのクラリネット協奏曲、ブラームスのクラリネット五重奏曲、クラリネット・ソナタ第1番と第2番くらいでしょうか」
「いや、他にも、ウィーン管楽グループやウィーン・コンツェルトハウス四重奏団と共演したモーツァルトの室内楽もあるでぇぇ」
「ベートーヴェンの七重奏曲やシューベルトの八重奏曲のレコードもありますね」
「船場君は、『こんにちは、ディケンズ先生』を執筆する前にヒロイン秋子が登場する短編小説を書いていて、それはウラッハが演奏する今の2曲に触発されて書いたようやで」
「そうなんですか、そうすると船場さんがもしウラッハを聴かなかったら、秋子という女性を創造することができなかったし、本を出版しようということもなかったのかもしれませんんね」
「そうやなー、船場はんは日頃からお世話になっている、文豪ディケンズへの恩返しと言っていて、主人公小川弘士もおもろい人物やけど、それに花を添える秋子がおらへんかったら、おっさんたちが趣味に没頭してるだけの小説や。第1巻の小川と秋子の恋愛が一番楽しめるところなんかもしらん」
「それはさておき、他のクラリネットの名曲の名盤はありますか」
「船場はんはクラリネットを習っているが(残念ながら、2年ほどコロナ禍でレッスンを受けていないが)、その先生の先生が、ジャック・ランスロなんや」
「あの有名な独奏がランパル(fl)、ラスキーヌ(hp)でパイヤール指揮パイヤール管弦楽団のフルートとハープのための協奏曲のB面のクラリネット協奏曲のクラリネットを吹いている人ですね」
「そう、ランスロのクラリネットの音色は決して繊細ではないんやけど、どっしりして太くて温かみのある音色なんや。最近、彼のケーゲルシュタット・トリオを聴いたんやけど、これも素晴らしかった。モーツァルトやブラームスのクラリネット五重奏曲も聴こうかと思っとる。他にもザビーネ・マイヤー、レジナルド・ケルやアルフレート・プリンツなんかも聴いてみたけど、ウラッハのモーツァルトのクラリネット五重奏曲やライスターのブラームスのクラリネット・ソナタ第1番、第2番のようなええレコードはなかったわ。あっ、そうそう忘れとった。ディーター・クレッカーというクラリネット奏者はテクニックが抜群で最近たくさんCDを買うたけど、脚光を浴びないのが残念や。船場はんの『こんにちは、ディケンズ先生』と同様、みんなに興味を持ってもらえたらと願うアーティストなんや」
「そうですね、頑張ってほしいですね」