プチ小説「青春の光 106」

「は、橋本さん、どうかされたんですか」
「せっかく、船場君が楽しみにしていたLPレコード・コンサートの再開が延期になったということで、なんだか気の毒になって」
「まあ、詳細は言えませんが、いつかは再開できると考えて他のことを地道にやって行くしかないんではないですか。最近2つ明るい話題があったじゃないですか」
「クラリネットのレッスンの再開とディケンズ・フェロウシップの3年ぶりの対面での秋季総会だね。谷上先生のレッスンを久しぶりに受けて、船場君喜んでいたなあ」
「船場さんの場合、一応一応一応」
「なんで3回も繰り返すんだ」
「いや、10回繰り返しても足りないくらいです。タンギングもほとんどできずリズム感もほとんどないのに、3のテキストを履修したということになっています。なのでやりたいことをやってもらっていい。希望したことを教えると谷上先生は言われています。それで船場さんは、まずは3のテキストのエクササイズを順番にやって行こうと思っておられます。他にやりたい曲があったら吹けるようにご指導いただこうと思っていますと言われていました」
「それで、船場君は30才位の男性がNHK喉じまんで「千の風になって」を気持ちよく歌っているのを見て、クラリネットで吹いてみたいと思ったので、それを習いたいということも言ったそうだ」
「ということは暫くはエクササイズの他に「千の風になって」も習われるわけですね」
「千のか~ぜに~なああってぇ~って気持ちよく吹けるといいが」
「それから船場さんは10月8日に開催されたディケンズ・フェロウシップの秋季総会に出席されました。懇親会にも参加され、前の前の支部長である佐々木先生を初め、たくさんの先生方と対面でお話をして楽しい時間を過ごされたようです」
「『こんにちは、ディケンズ先生』の第3巻と第4巻がほしいと数名の方から言われて、在庫の山が少しはなくなると喜んでいたなぁ」
「いえいえ、そうやって希望した方はきちんと最後まで読んでくださるでしょう」
「残念だったのは、船場君が西南学院大学でミニ講演「ディケンズについて」をした時に解説をしていただいた先生と世話役をしてくださった先生が来られなかったことで、船場君はとても残念がっていた。...それにしてもクラリネットのレッスンは月3回30分ずつだし、ディケンズ・フェロウシップの集まりは来年10月まで待たないといけないから、船場君は後はひたすら大学図書館に通って小説を書くしかないのかな」
「そりゃー、息抜きに遠出が出来ればいいですが、コロナ禍が続いているので無理は禁物でしょう。お金もかかりますし」
「それじゃー、何を楽しみにすればいいのかな」
「今のところ山登りはできないでしょうが、大学図書館に行くために往復早足で7キロ近くを歩き、夕食後筋トレを続けていれば、高槻シティハーフマラソン10キロ60才代の部に出場できる体力がつくんじゃないですか。11月に入ったら涼しくなりますから、ジョギングもやったらいいと思います。山は危険が伴いますが、マラソンなら倒れたらすぐに側の人が助けてくださいますし反対されることはないと思います」
「なるほど、ジョギングはいいかもしれない。お金がかからないし。他にお金がかからなくて楽しいことと言えば、読書というのがあるぞ」
「読書ですか?」
「船場君は一昨昨日『モンテ・クリスト伯』を読み終えたと言っていたが、風光書房で購入したハードカバーで読んでいないのが数多ある」
「そう言えば、ポー全集は手つかずのままですね」
「残念ながら、ポー全集については夜中にトイレに行けなくなると困ると船場君が言っているので読むかどうか分からないが、翻訳もののハードカバーがたくさんあるから、それで楽しい時を過ごすだろう」
「まあ、船場さんは37年ぶりに通学するのが楽しいようですので、しばらくは切れないですみそうですよ」
「まあ、今まで楽しいことがあまりなかったちょっとのことでも楽しみに繋げることが出来る船場君のことだから、この状況が20年続いても大丈夫だろう」
「そうですね」