プチ朗読用台本 「ピクウィック氏の気概」について

 ディケンズは14の長編小説と未完の『エドウィン・ドルードの謎』という小説の他たくさんの中、短編小説を残していますが、ディケンズが24、5才の頃に書かれた『ピクウィック・クラブ』は彼の最初の長編小説です。この小説は、主人公サミュエル・ピクウィック氏と彼が創設した「ピクウィック・クラブ」のメンバー3人が旅をする途中で遭遇するさまざまな出来事を、新進気鋭の作家ディケンズが若々しい感性で、持ち味であるユーモアとウイットを織りまぜながら饒舌に物語っています。途中からピクウィック氏の召使としてサム・ウェラーが加わり彼の活躍でより一層物語への興味がかき立てられますが、バーデル夫人が婚約不履行の訴えを起こすあたりから、物語の場面が健康的な屋外や華やかな屋敷での遊楽のスケッチから薄暗い建物の中での裁判を巡る駆け引きの描写に変わって来ます。
 ディケンズは若くして速記の技術を身に着け民事法廷の速記者となり、やがてその技術を生かして新聞記者になります。ディケンズはこの頃に作家としての活動も始めますが、法廷の速記者や新聞記者の時に見聞したことを彼の作品の中に生かしています。彼はその他の小説の中でも法律や裁判に関連する話を取り入れ、より一層の物語への興味を持たせています。自伝的小説と言われる『デイヴィッド・コパフィールド』の主人公は、法律家になるために法律事務所で勉強します。長引く訴訟を批判したと言われる『荒涼館』では、その裁判の被害者や悪徳弁護士を描いています。またロンドンとパリを舞台とした『二都物語』では、それぞれの都市の法廷で臨場感のある裁判が繰り広げられます。この小説では、先に記したバーデル裁判の場面以外にも、悪党ジングル、ウォードル氏や一緒に旅をするピクウック・クラブのメンバーに関するエピソードも楽しく、独立した暗いムードの挿話も興味深く、最初の長編小説を出すにあたっての文豪ディケンズの意気込みが感じられるものとなっています。

朗読会用台本を読み上げる前に、よりよく理解して楽しんでいただくためにそれまでの物語の流れをごく簡単に紹介させていただきます。

 ピクウィック・クラブのメンバーに主人思いで機転が利くピクウィック氏の召使いサム・ウェラーが加わり、ピクウィック・クラブの前途は明るく輝いていると思われましたが、ピクウィック氏が何気なく口にした言葉が、下宿の女主人バーデル夫人の誤解を招き、ピクウィック氏は婚約不履行としてバーデル夫人に訴えられることになります。悪いことが重なり、しかもバーデル夫人に悪徳弁護士のドッドソンとフォッグがついたため、ピクウィック氏は起訴から裁判が終わるまでの間に苦々しい思いを持ち続けます。結局、悪徳弁護士ドッドソンとフォッグにピクウィック氏の勝ち目はなく、ピクウィック氏は敗訴しますが、悪徳弁護士の思い通りにさせないためにあることを実行します。

なお、バーデル裁判の発端となる出来事から、裁判後のピクウィック氏の行動までを追うと今までの台本の2〜3倍の長さとなりました。そのためこの台本では3部構成とし、第1部に裁判の発端となる出来事から訴状が届くまでを、第2部に裁判を前に奔走するピクウィック氏を、第3部に裁判とその後のピクウィック氏の行動を収めることにしました。それでは、「ピクウィック氏の気概」をごゆっくりお楽しみください。


プチ朗読用台本「ピクウィック氏の気概」第1部(『ピクウィック・クラブ』第12章、第18章より)

プチ朗読用台本「ピクウィック氏の気概」第2部(『ピクウィック・クラブ』第20章、第31章より)

プチ朗読用台本「ピクウィック氏の気概」第3部(『ピクウィック・クラブ』第34章、第35章、第40章より)


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